62 Martinez Madrid C / 63 Martinez Hauser S

Martinez Madrid C / Martinez Hauser S

 毎日のレッスンで私が使用するギターは、常にチューニングしたままギタースタンドに立てて、すぐに弾けるようにしている。その他のギターは弦をゆるめてハードケースに入れ、休日に弾いている。今までの私のナイロン弦のレッスン用ギターは辻渡S-1を使用していた。
 2018年6月、大阪北部を震源とする最大震度6弱の大規模地震が発生した。スタンドに立てていたレッスン用ギターは幸い無事であったが、南海トラフなどの今後の大規模地震を考えると現状は危険で、レッスン用ギターを入れ替えることにした。

 私がレッスン用ギターに要求する要素はここの「私のギター列伝」にある「29 辻渡 S-1」に書いた「普段弾き用ギター」とかぶる部分が多い。レッスンで毎日弾くため、
 (1)きちんと作られていて丈夫であること
 (2)ネック・ボディ・弦高など含めて弾き易いということ
 (3)音程やチューニングが安定していること
 (4)できれば音も良いこと
 (5)比較的安価で入手したものであるということ
 これらの条件は生徒さんの1本目あるいは2本目のギターに要求される要素でもあるので、普段から中古品情報やオークションサイトなどを注目している。

 (1)は信頼のおけるメーカー製で年度が最近のものであれば問題ないが、メーカーが有名であればあるほど(5)の値段が高くなっていく。
 (2)のネック・ボディは個々の好みもあるため一概には言えないが、弦高は購入後に自分で調節できるので弦間ピッチやナット幅などに注目している。
 (3)も信頼のおけるメーカー製であれば問題ないが、ナットやペグの問題であれば交換できる。
 (4)は好みの問題でもあるため優先順位は高くない。
 (5)が一番難しく、それなりの金額を出せば問題ないギターを入手できるがそれでは今まで使用していたギターと換える必要がない。私のような小心者は購入価格が10万円を超えるギターがスタンドから倒れるとダメージはかなり大きいと言える。したがって私としては購入価格を5~8万円あたりに抑えたい。

 (1)~(4)の条件を、毎日弾くレッスンギターレベルで十分に満たすには新品定価10万円以上のものは必要で、それを半額あたりで入手するというのが理想である。条件に合う良質の中古品を探すということになるが、半額ほどになっている有名メーカーの中古品は、かなりの掘り出し物(辻渡S-1はこれにあたる)を見つけない限り、ほとんどの場合程度のかなり悪いものや古いものになる。したがって、良質のギターを作っているが、さほどビッグネームではないメーカーの中古品で、状態が良いものを探すことになる。
 なかなか厳しい条件ではあるが、すべての条件を満たすナイロン弦ギターを入手できた。

 Martinez(マルティネス)は1978年にドイツで創設されたクラシックギターメーカーである。2005年にアメリカの有名なクラシックギター製作者であるケネス・ヒルが参画し、技術指導や製品監修を行ない、Martinezギターの楽器としての性能を引き上げた。現在は入門用からコンサート用まで、さらにはエレガットまでの幅広いラインナップを製作している。
 「Madrid C」はケネス・ヒルの指導技術を最も取り入れたMartinezの最高峰であるプレミアムシリーズのモデルで、定価165000円ながらオール単板のラッカー塗装で、音質・音量とも優秀、音としては日本製手工ギターの30号ほどのポテンシャルを持っている。ホセ・ラミレスを代表とするマドリッド派のような大きめのボディと杉のトップからボリュームのある甘い音を出す。
 また、このギターにはクラシックギターにはめずらしく、ネック内にトラスロッドが入っており、ネックを補強し、万一ネックが反った時の修正を行うことができる。伝統を重んじるクラシックギター製作家はトラスロッドを使うことを嫌うふしがあるが、木製である以上絶対に反らないネックは無く、私は積極的に取り入れても良いのではと思っている。
 この「Madrid C」の非常に程度の良い中古をオークションで定価の半額ほどで入手し、レッスンで使用していると、弾きやすさと音をどんどん気に入り、音の大きさや出しやすさなどから生徒さん用としても最適であるためストックしておこうとオークションなどで注目していた。すると1年後に「Madrid C」の状態の良い中古が再び出たので入手した。到着したギターは昨年入手したものとシリアル番号が2番違いの兄弟ギターであった。

 さらにその数か月後、今度は同じプレミアムシリーズの「Hauser S」の1年もの中古がオークションに出たのでこれも入手した。これはドイツのハウザーのコピーモデルで、やや小ぶりなボディと松のトップから、ややおとなしいが繊細で透明感のある音を出す。レッスン用としては音的には大きすぎないこちらの方が合っているかもしれない。

 このように、Martinezのプレミアムシリーズを非常に気に入り、2年弱で3本も入手し、レッスン用としてローテーションしながら使っていたが、ほどなくして「Madrid C」の1本は当初の予定通り、アコースティックギターのフィンガーソロの内容を向上させるため、クラシックギターを基本から始めたいという生徒さんの所へ嫁いでいった。

 2021年になり、2020年製の「Hauser S」を弾く機会があったが、2018年製に比べていろいろと変化が見られた。トップがシェラックのような極薄ラッカーであったのが、ピカピカのラッカー塗装に。ハードケースがセミハードケースに。サイドポジションマークは7Fのみだったのが5Fと7Fに。シリアル番号はすべて数字だったのが左端にアルファベットが付いた、などなど。音も基本は変わらないが、20年モデルは18年モデルとは少し傾向が変わったように感じた。2019年~20年あたりで製作ラインが変わったのであろうか。