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辻 渡 S-1 (クラシックギター)

 音質や音量をとことん追及したギターはトップが振動しやすい構造でないといけない。しかし、振動しやすいということは、分厚すぎない軽めの材で弦の張力に耐えうるぎりぎりの強度をもたせるブレイシングで、塗装も薄めが望ましい。つまり、演奏時以外は丁寧に扱い、手入れをこまめにして、金属弦ギターは演奏後弦をゆるめておくことなどが必要になる。値段も高いものになるので私のような臆病者は気楽にほって置くことはできない。このため私の場合、メインギターは週に1~2回弾く程度で、普段は「普段弾き練習用」を使用する。つまり、普段からチューニングしたままギタースタンドに立てかけておき、いつでも気楽に手に取れるギターである。

 この普段弾きにはメインとは違った性能が要求される。
 まずは少々手荒に扱ってもかまわないというほど丈夫であること、音に関してはひどすぎるのは困るが、さほど髙レベルを要求しないので、塗装は丈夫なポリウレタン、サイドバックは合板などの丈夫な材で、ブレイシングもしっかり作られているものが良い。
 値段も安めのほうがありがたい。
 次に弾き易いということ、弦高が適切でネック幅や弦幅も標準であり、自分のメインギターのセッティングや寸法に近ければ理想である。
 さらに音程がしっかりしていること、音程が不安定だと練習とはいえ演奏に没頭できない。ずれた音程でも平気な耳になってしまうかもしれない。

 つまり、丈夫な構造で弾きやすく、音質は良いに越したことはないがほどほどで、音程はしっかりしている比較的安価なものとなる。したがって普段弾きは、しっかりした国内メーカーの中級モデルで程度のいい中古品あたりが狙い目になるが、なかなか合致するのは見つからない。トップは合板でもかまわないが、廉価ギターになる場合が多く、弾きにくかったり音程が甘かったり、音質はさほどこだわらないと言っても、弾く気が失せるほどひどいものは困る。さらに、程度のいい入門用や、一般用、ピックアップをつけてのライブ用のギターと要求点がかぶるため、購入者層の幅が厚く、価格帯も適度なため他にも同じようなものを探している人が非常に多い。これは!という中古はすぐに売れてしまう。

 クラシックギターはサイモン・アンブリッジのみだったため、普段弾き用ギターをネットで探していると、レベルも価格もピッタリなこれを京都の楽器店のホームページで発見した。

 福岡に工房を持つ日本では老舗のギターメーカーであるアストリアス。そこのマスタールシアーの辻渡氏監修のSシリーズはハウザー系のボディでレスポンスもよく、初級者から中上級者まで幅広いユーザーに使用されている。以前に辻渡 S-3を所有しており辻渡の良さは十分知っていた。

 人気が高くあまり中古で出ない辻渡 S-1としては、2000年製の6年もので、定価の半分ほどの値段はかなり安い。電話でホールドして、すぐに京都まで試奏に行くと小キズだけのほとんど弾いていないものだったが、店員さんが言うには、ほんの少しだけトップが膨らみぎみとのこと(サドルの余裕は十分にあった)、やや弦高が高かったのでさらに値引いてもらって購入した。

 家に帰って小キズはコンパウンドでとり、弦高もサドルで調整し、ペグを少し良いものに交換して新品同様となる。弾きやすさと音程は抜群で、ハウザー系のためメインのアンブリッジとボディサイズもほぼ同じ、私の普段弾きの練習用ギターとしては理想である。辻渡らしいレスポンスの良さはもちろん、杉トップのためやや太めで丸みのあるスコーンと前に出る元気な音色も好感が持てる。音に深みや艶は少し欠けるが、値段を考えるとそこまでは要求できない。

 後日、アストリアスのクラシックギターについて非常に詳しい方に聞いたところでは、辻モデルは力木の構造上、トップがやや持ち上がり気味になるようにしているとのこと。つまり、このギターのトップは膨らみぎみではなく、これで安定している状態であるらしい。確かに、購入後10年ほど弦はほぼチューニングしっぱなしであるが、トップや弦高に変化は見られない。

 現在はスクールでのレッスン用ナイロン弦ギターとして活躍している。