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Jose Marin Plazuelo (クラシックギター)

 スペインは19世紀後半に現代クラシックギターの原型を初めて作ったアントニオ・デ・トーレスを排出し、その後多くの製作者が集まり世界屈指のクラシックギター大国となった。現在スペインのクラシックギター製作家はホセ・ラミレスを筆頭とするマドリッド派と、Antonio Marin Montero(アントニオ・マリン・モンテロ)を筆頭とするグラナダ派に分かれる。

 Jose Marin Plazuelo (ホセ・マリン・プラスエロ《プラッツエーロ》)は1960年にスペインのグラナダで生まれた。ホセ・マリンはグラナダ派筆頭のアントニオ・マリンの甥にあたる。ホセは14歳で叔父のアントニオの工房に弟子入りし、1984年からホセ・マリン・プラスエロ銘のギターを世に出すようになった。その後30年以上を経て、近年は師匠に肉薄するほどのレベルのギターを製作している。音量があり、透明感があり、艶のある音色を誇る。シェラック塗装も師匠ゆずりの素晴らしい仕上がりである。

 ちなみに、師匠のアントニオ・マリン・モンテロは1933年にグラナダで生まれ、家具職人を経てエドワルド・フェレールの工房で4年ほど修行し、28歳で独立した。44歳のとき、ある日本人の紹介でローベル・ブーシェと出会い自分のギターとの差に愕然とし、芸術的な音色に目覚める。これ以降、彼のギターの品質は飛躍的に向上していき、彼を尊敬し慕う多くの若手製作家がアントニオのもとに集まるようになりグラナダ派になっていった。グラナダ派の代表的な製作者は、もう一人の甥のサンチャゴ・マリンをはじめ、ホセ・ゴンザレス・ロペス、アントニオ・ラジャ・パルド、ベルンド・マルチン、三浦隆志などがいる。

 現在、マリン工房には師匠のアントニオ・マリンと、甥のホセ・マリンと、弟子のホセ・ゴンザレスの3名がいる。しかし、すでにアントニオは80歳を超えた高齢のため、アントニオ・マリン・モンテロ銘のギターは、現在、アントニオの後継者であるホセ・マリンがほとんどすべてを製作している。アントニオ・マリン銘のギターがまだ製作されて値段が二百万円前後で安定しているため、弟子であるホセ・マリンのギターの値段を師匠に近づけることが難しい。これにより、ホセ・マリンはここ数年で楽器として非常に良くなっており、世界的にも人気が出ているにもかかわらず値段はずっと横ばいで、同価格帯の他のギターより高品質のため、新品はすぐに売れ、中古もなかなか出ない状況が続いた。この人気のため2015年後半には価格を上げて販売する店が出始めていた。2015年12月に東京に行ったとき楽器店を回り、最新のホセ・マリンを見つけて試奏したところ、評判からの予想をさらに上回る素晴らしい音で驚いた。しかし、そのギターはかなり価格を上げられており、そのため躊躇していたらそれでもすぐに売れ、入手できなかった。

 2016年1月、大阪のクラシックギター専門店FANAにホセ・マリンが入ったとの情報を得た。すぐに行くと、2本あり価格はどちらも先月東京で見た価格より何と数十万円も安い上昇前の旧価格であった。どちらも東京で弾いたものに勝るとも劣らぬギターで、「音量があるのに分離が良くバランスも秀逸、右手のタッチに反応し、透明感と艶のある音色」である。これらをすべて高次元で成立させるギターは非常にまれである。一般的に音量を増やせば透明感は薄れ、中低音はモヤっとし始め、和音は固まってくる。また表現は難しいが、音量が増えれば音質に深みや艶が少なくなっていく傾向にあると言われている。しかし、ホセ・マリンはボリュームがあるが締まった芯のある中低音、スッキリと透明感があり深みのある中高音を出すのである。また、バランスの良さに驚かされる、どの弦、どのポジションでも音量と音色のばらつきが非常に少ないのである。近年のギターは高級モデルでも低音と高音の音量を上げ中音は抜け気味の物が多い。高音やハイポジションの音が必要以上に大きいのである。このホセ・マリンはその傾向も少なく、たっぷりとした中低音に透き通った高音が乗っているという感じである。開放弦やローポジションがたっぷりと鳴るように聞こえるのである。

 このように、私がメインにしているバランスと分離の良いサイモン・アンブリッジと、サブの音量のある河野マエストロの良い所を取って合わせたような銘器であった。じっくり2本のホセ・マリンを弾き比べ、どちらも甲乙付けがたかったが、弦の特性の差や、音がこなれてくるであろうことを考慮し、2015年末に完成した超出来たての、より新しく、より輪郭と音量のある方を選んだ。その日はホールドして、後日、アンブリッジと河野を持っていき、下取り合計額がハイコストパフォーマンスのホセ・マリンの価格に近づいたので、その2本を下取りにして購入した。追加金はほとんど発生しなかった。

 マリン工房のギターは、サウンドホールから覗くと内部の力木やブロックにサインや製作年月やシリアルナンバーなどが書かれている。このギターのエンドブロックには「Noviembre 2015」と書かれている。Noviembreはスペイン語で11月である。2015年11月生まれのこのギターは、スペインのグラナダで生まれてから2ヶ月たらずで私の所に来たことになる。オリジナルペグはルブナー製であったが、精度が甘かったためすぐにゴトー510に交換した。その翌年、最高級品のロジャースが手に入ったので交換した。