08 YAMAHA FG12-301 (12弦ギター)

YAMAHA FG12-301 1977~1983

 1970年代当時から、ヤマハは日本の他のアコギメーカーのようにMartinやGibsonのコピーに走ることはせず、独自路線のアコギを入門用からプロ用まで幅広く発売し、正統派Martin路線で入門用モデルを作らないS-Yairiと双璧をなす国産アコギのトップメーカーであった。

 高校に入ってもブラスバンド部に入部したが、高1の途中で辞めたので、その後はギターばかり弾いていた。FやB♭やE♭などのバレーコード、ストローク、アルペジオ、スリーフィンガー、リードギターなどの基本奏法はほぼマスターし、日本のフォークソングのコピーに飽きかけていたそのころ、雑誌で「ポール・サイモンのギタープレイはとにかくすごい!」という記事を見て、サイモン&ガーファンクルのグレイテストヒッツというLPレコードを買った。これを初めて聞いた時の衝撃は強烈で「アコースティックギターでここまで表現できるのか…」と呆然となり、嬉しさが込み上げてきた。新たな目標を見つけたのである。

 その日からポール・サイモンのギタープレイに傾倒していく。高校2年になってサイモン&ガーファンクルのすべてのLPレコード7枚を揃え、カセットテープに録音し、ひたすら聞いて耳でコピーした。当時サイモンのギターの楽譜本は出てはいたが限られた曲数で、しかもかなり不完全なコピーだった。極めつけの楽曲はアルバム「サウンド オブ サイレンス」にある「アンジー(Anji)」というギター1本のみのインスト曲で、この曲で初めてアコギのフィンガーギターソロに出会った。楽譜はどこにもなく、レコードから録音したカセットテープが擦り減って音が変になったら録音し直すくらいまで繰り返し聞いて1ヶ月かけて耳コピーし、更にノリの表現ができるまで練習を重ね、ようやく何とか弾けるようになった。

 中学生~高校生の成長期に、押弦のため右手指よりも左手指を動かしまくっていたので、気がつけば左手の親指以外の指は右よりも1cmほど長くなっていた。

 しかし、いくら練習してもニュアンスが出せない曲があった。サイモンが12弦ギター1本で伴奏しガーファンクルのハイトーンボイスが響き渡る珠玉の名曲「エミリー・エミリー」(アルバム「グレイティストヒッツ」ライブヴァージョン)である。
 通常のギターは6弦であるが、12弦ギターは弦が2本ずつ6セットあり、3弦から6弦までの中低音弦は細い弦がペアリングされ1オクターブ高い音程でチューニングする。1弦と2弦の高音弦は1オクターブ高くすると弦が細くなりすぎるため同じ弦が2本ずつあり同じ音程(ユニゾン)でチューニングする。これにより通常の6弦ギターよりもコーラス効果の効いた幅広く美しい響きになる。このように構造的理由から、どうあがいても6弦ギターでは12弦ギターの神秘的な響きは再現できない。この曲以外にもサイモンには12弦ギターを使用した名曲があり、高校2年のお年玉の使い道は決定してしまった。

 1977年1月、毎年恒例となってしまった初売り日の開店時刻にロッコーマンへ行き初の12弦ギターであるYAMAHA FG12-301を購入した。帰ってすぐに「エミリー・エミリー」のイントロを弾いたときの部屋中をグルグル音がまわる感覚は今も覚えている。このギターは6年後の1983年に12弦ギターが必要だという友人の所に旅立った。