20 ピック

 ピックは多くの種類があり、ピックによる音の変化は結構大きい。まずは、形、厚さ(硬さ)、材質の3つに分けて説明していこう。この中から自分の演奏スタイルに近いものを数種類購入し、それらの中から最も手になじみ、弾いた感覚と出てくる音が、より自分に合ったものを絞り込んでいってほしい。
 ピックは消耗品なので、ある程度すり減ってきたら交換するほうが良い。また、ピックはメーカによっては短期間でモデルチェンジが行われる。これだ!というピックに出会ったら、生産中止になる前にある程度まとめ買いをしておくほうがいいかもしれない。

形状

 ピックには色々な形状がある。形状の違いで音質や持ちやすさや弾きやすさが変わるが、人それぞれ感覚や好みが違うため色々な種類を持ってみて、弾いてみて自分で判断するしかない。音に大きく影響するのはピックが弦にあたる先端の部分の形状である。ここがシャープになればなるほど音もシャープになる傾向が大きくなり、先端が丸くなればなるほど音も丸くなる傾向が大きくなる。

 ・おにぎり型(トライアングル型)  アコースティックギターでのストロークやカッティングなどに向いたポピュラーなスタイルのピック。写真中央列の縦3つである。ほぼ正三角形なので、3つの頂点どこでも同じ感覚でピッキングができ、経済的である。単音リードもできるが、先が丸めなので押し込みぎみに弾くことになり、音は太く丸い音になる傾向がある。早いフレーズよりもスローでソフトなリードに向いている。ただし、おにぎり型の中にも先がややシャープなものもあり、これにより音質が変わる場合もありうる。先端の形状をよく見る必要がある。

  ・ティアドロップ型  なみだのしずくの形。写真左列の下2つである。エレキギタリストにはポピュラーなスタイルのピックで、多くのエレキギタリストが使用している。先端は比較的とがっているので、音はややシャープな印象になる。なめらかで早めのピッキングがしやすく、単音のソロ弾きに向いているが、ストロークにも対応できる。

  ・ジャズ型  ティアドドロップ型のサイズを小さくし、先端もよりシャープにしたピック。写真左列の上の黒である。ティアドロップよりもさらにシャープな音になり、ひっかかりが少なく細かく動かしやすいため早いピッキングが可能。ただし、アコースティックギターでは音量がやや小さくなる傾向があるので、使用しているプレイヤーは少ない。エレキギターで早いフレーズや細かいフレーズを多用するJAZZ、ハードロックギタリストの愛用者が多いようである。

  ・サムピック型  フィンガーピッキングのときに、親指にはめて使用するタイプのピック。メリハリのあるベース音が得られ、ミュートベースを弾くときは多くのプレイヤーが使用している。写真右列の縦3つである。これも先の形状や厚みや材質によって音質が変わる。音質も大事であるが装着時のフィット感も重要である。私の場合フィンガーピッキングがメインスタイルなのでサムピックを使用することも多く、自分の親指にきつすぎず緩すぎずピッタリフィットするものがなかなかないため、楽器店に行くたびに装着し、しっくりくるものがあったら購入するようにしている。
 自分の親指に完全フィットするものがなかなか見つからない場合は、ある程度合ったものをお湯につけて柔らかくし、それを親指に装着して左手で圧着し、そのまますぐに冷水につけて冷やし固めるという方法がある。この場合の注意点は、煮立った熱湯ではサムピックが必要以上に伸びてしまい圧着しにくくなる。もちろん熱すぎると親指も耐えられない。サムピックの材質にもよるが、60~70度くらいのお湯にしばらくつけておくのが良いようである。その間に親指は冷水で冷やしておくと装着時の熱さが幾分和らぐ。(この方法は火傷に十分注意し、自己責任でおこなってください)

厚さ(硬さ)

 ピック自体のしなりの影響で、厚さによって弾いたときのレスポンスが変化する。薄ければ遅く、硬ければ早くなる。特にアコースティックギターは、厚みによる音の変化が顕著に出る。厚くて硬いピックはタッチがダイレクトに弦へ伝わり、アタックが強調された太めの大きな音になる。薄くてやわらかいピックはアタックは控えめでシャラーんとした小さめの音になる。

 自分のタッチがまだ安定せず、指や手首のしなやかさもまだ出せていない初心者は、タッチがもろに弦に伝わる厚く硬いピックはさけて、ピック自体のしなりを出せる薄めか中くらいの硬さのピックの方が弾きやすく、音も粒が揃いまとまりやすい。また、初心者は力が入りすぎている場合があり、薄めの方が指や手首への負担が少なく長時間プレイしても手の疲れが少ない。
 上達に伴い自分のタッチが徐々に確立し余分な力が抜けていくと、それに伴ってしなりが小さくタッチの微妙なニュアンスが弦にダイレクトに伝わりやすい硬いピックを使用するプレイヤーが多くなるようである。

 厚さの表示
  ・SOFT(ソフト)またはTHIN(シン):厚さは0.5mm位で柔らかく良くしなる

  ・MIDIUM(ミディアム):厚さは0.7mm位でいわゆるソフトとハードの中間

 ・HARD(ハード)またはHEAVY(ヘビー):厚さは1mm位で硬くしなりが小さい

素材

 厚みだけでなく素材が変わると、硬さや音色や弾いた感じや持った感じが変わる。つまり同じ厚みの表示でも素材が変われば硬さも変わるため、今使っているピックのハードよりもう少しだけ柔らかめがほしいというときは、素材を変えると良い。

  ・セルロイド  一般的に最も多く使われている。すべりにくく柔軟性があり使い易い。割れやすく摩耗しやすいというディメリットもある。

  ・ナイロン  硬めで磨耗に強いが、やや滑りやすい。輪郭のあるシャープな音が特徴。摩耗しやすいというディメリットもある。

 ・べっ甲 ウミガメの甲羅のタイマイを加工したもの。軽いのに硬さがあり、僅かなしなりでバランスが良い。また、表面が指に吸い付くような感じで滑りにくく、硬いピックとしての性能は非常に高い。しかし、ウミガメの乱獲が進み、保護のためワシントン条約により1992年に輸入禁止となった。これにより現在は禁止前の在庫で対応するしかなく、大変高価な貴重品となっている。現在もべっ甲ピックは高額でごく少量販売されているが、以前に比べ粗悪品も多く、全体的には小さく薄くなり先端もシャープになりすぎているものが多い。

  ・ウルテム 人間の爪やべっ甲などの自然素材に近い新素材で、柔軟性もあり立ち上がりやバランスが良い。べっ甲が入手困難になった現在では、べっ甲ファン注目の素材である。摩耗しにくいという特徴もある。

  ・デルリン  軽い素材で先端が減りやすい。シャープな音になるが、本来はツルっとした材質で滑りやすいため、表面をザラつかせたり、くぼみを付けたりして滑りにくくしているものが多い。

  ・その他  「メタル」はステンレスやチタンなどの金属素材ピック。エレキギターのヘビーな演奏で使われる。特殊な効果を望む場合を除いて、アコギで使われることはほとんどない。「石」でできたピックもある。極太で極硬を好むプレイヤーが使用する。ほかに「カーボン」「セラミック」「骨」「象牙」「木」「ゴム」「皮」「フェルト」などもある。


 このように、形状もさまざま、厚さももさまざま、材質もさまざま、これらの無限の組み合わせで音質・弾きやすさが変化する。上級者になればなるほど音質とタッチにこだわるプレイヤーが多く、プレイスタイルに応じてピックを持ちかえたり、自分専用のピックを作らせたりしているプレイヤーもいる。
 初心者でどのピックから始めればいいかわからない場合は、セルロイドかウルテムのおにぎり型とティアドロップ型のメディアムかソフトを何種類か購入し、弾き比べながらしばらく使ってみて、弾きやすいと思う方を見つけていくようにすると良いかもしれない。
 ちなみに、私は現在、おにぎり型のウルテムのHARDを使用することが多い。