21 カポ

 カポは略称で、正式名称は「カポタスト(Capotasto)」である。アメリカではCapoと書いて「ケィポゥ」と発音する。ギターの楽譜で「Capo:2」や「カポ2」と記載されている場合は「2フレットにカポを装着して演奏しなさい」という意味になる。

 カポの目的は移調である。1フレットに装着するとすべての解放弦が半音上がる、2フレットに装着するとすべての解放弦が全音上がるのである。つまり、カポ2でCコードを弾くとDコードの音が出る。このため、調やコードの基本が分かっていればE♭の調の曲を伴奏する時、弾けないコードが出てくる場合はカポ1でDの調で弾けば良いことが分かる。

 カポの目的は、このようにコードを簡単にして弾くということだけではない。フィンガーソロを弾く場合、同じ曲でもカポ無しで弾いた場合とカポ2で弾いた場合では、たかが全音の変化であるが、かなり曲の感じが変わる。カポ5では別の曲のようになるのである。このため、曲のイメージを、より曲想に近づけるためにカポを使う場合がある。
 また、すべての弦を全音下げてチューニングし、カポ2で弾くと、レギュラーチューニングのカポ無しと音程は変わらないのであるが、テンションが変わり音質が変化するため、あえてする場合もある。
 この方法は指はもちろんネックやボディへの負担も軽くなるため、ネックの反りやトップの浮きが気になるギターに行う場合もあるようであるが、レギュラーチューニングにおけるテンションや音質がそのギターの個性であるから、私はその目的ではおこなったことはない。

 カポの種類は多く、ひも式、ゴムベルト式、バネ式、ねじ式、テコ式、レバー式、などなど様々である。値段も数百円の物から数万円の物まである。値段が高い方が音がいいのかと言うとそうでもない。個人的には「カポは高くても5000円台まで」という意識がなぜかある。代表的なカポの形式について述べてみよう。
 まずは「ゴムベルト式」である。(写真左列の上)最も安価で500円前後で買える。1970年代のフォークブームの時はこの形式のものが中心で、多くのプレイヤーが使っていた。2~3段階の強さの調節はできるが微妙な強さの調節はできない。装着もワンタッチとは言い難く、「これしかダメだ」というプロもいるにはいるが、現在使っているプレイヤーはあまり多くはない。
 手軽なのは「バネ式」である。(写真左列の下)1000円前後で買える。何より装着がワンタッチですぐにできるため、ヘッドにはさんでおいてすぐに付けたり2フレットから4フレットにすぐに付け変えたりできる。ただし、強さの調節はできないものがほとんどであるため、どの程度の強さで装着したら良いかよく分からない初心者には使いやすいが、強めのものが多く必要以上の力で弦を押さえ、チューニングがシャープしやすいというディメリットもある。強さの調節ができるバネ式がダダリオから発売されているが、フレットが変わると再調整が必要なため手軽さは少し犠牲になっている。(当ホームページの「ブログ」で紹介している)
 現在最も種類の多いのが「ネジ式」である。(写真右列および中央列の下)値段も1000円~数千円と幅広い。強さの微妙な調節がしやすいため、これを使用しているプロは多い。ただし、初心者はどこまでネジを締めていいかわからないため、締めすぎてしまう危険性もある。
 また「SHUBBカポ」(写真中央列の上)に代表される「テコ式」もよく使われる。装着が手軽で強さの調節もでき、一度調節するとはずしてもまたそのままの強さで使えるというメリットがある。ただし、調節は一旦すると変更するのにやや手間がかかるのがディメリットである。ほとんどは同じギターの2フレットにしか付けないという場合には非常に使い勝手が良い。
 最後に「G7thカポ」(写真中央列の中央)に代表される「レバー式」である。手で加えた力をキープしてそのまま装着できる。はずす時はレバーに触れれば簡単にはずれる。微妙な強さの調整もでき着脱も簡単というメリットがある。ディメリットは他の方式のカポに比べて大きく重いことと、値段が比較的高価なことである。(最近、このディメリットを解消すべく、軽量化され値段が下げられたNewG7thカポが発売された)
 このほかに、弦上をすべらせながらフレットを移動できるものや、特定の弦だけを押さえるものなど特殊なカポもたくさんある。
 私は初心者の生徒さんの、お子さまには1000円前後のバネ式を、その他の方にはネジ式をお勧めしている。

 このように種類が多いため、選ぶ場合に止める方式や、重さや、値段に関心がいくが、私自身がカポを選ぶときに最も気にしている要素はカポの押弦部分のアールである。
 アールとは円弧の曲がり度合のことで「R=100」などと表記する。これは半径100mの円弧の曲がり度合を言う。ちなみにRは半径(radius)の頭文字である。半径が大きくなるとゆるく曲がり、半径が小さくなるときつく曲がる。「Rが大きい」と言うとカーブは緩やか、「Rが小さい」とカーブはきついのである。この表現は誤解を招くことが多いので、ここではあえて「Rがゆるい」、「Rがきつい」と表記する。

 クラシックギターの指板はほぼ平坦であるが、アコースティックギターの指板はコードが押さえやすいように指板にはRが付いている。このRの度合はメーカーにより様々である。フィンガーピッキング向きで広いネック幅の指板のRはゆるめが多い。そしてMartin、Gibsonの順で指板のRはきつくなっていく。
 クラギ用のカポは押弦部分のゴムはまっすぐになっている。このクラギ用カポを指板のRがきついアコギに装着すると中央の3、4弦が強くフレットに押し付けられて、端の1、6弦は十分な押さえがなされないため弾いた時に音がビビる。端の弦がビビらないようにさらに絞めていくと中央の3、4弦が極端に強く押さえられるので、最悪の場合指板に食い込み弦の跡がついてしまう。そこまで行かないにしても、端の弦と中央の弦で押さえつける度合が変わるため、チューニングがくるってしまう。

 この現象は、クラギ用のカポだけではなく、Rのきついカポを、Rのゆるい指板に装着した場合でも、その逆でもおこりうる。SHUBBカポ(写真中央列の上)のように押弦部分のゴムが分厚く柔らかめであればRが少々ずれていてもある程度は対応できるが、ゴムが薄く硬い場合はRが合っていないとチューニングがくるいやすい。ただし、Rが合っている場合はやや硬めのゴムの方が小さな力で装着できるためチューニングは狂いにくい。指板のRが様々なギターを持っている場合はゴムが分厚く柔らかめのカポ一つで網羅するか、ひとうひとつRを合わせた硬めのゴムのカポを複数使い分けるかの細かいレベルでの選択が生じる。
 ギターの本数が少ない場合はそのギターのRに合ったカポを探して合わせればよいが、私のように本数が多くRにこだわる場合はカポもRのきついものからゆるいものまで写真のように何種類も用意する必要がある。止める方式は非常に多くの種類があり、技術の進歩により新方式も出ているが、Rを調節できる比較的安価なカポは残念ながらまだ発売されていない。Rの違う数種類の押弦部分のゴムを付け替えることのできるカポなら安く出来そうなのだが…
 これを書いた後に、アメリカの「THALIA CAPOS」からRの違うゴムを付け替えることのできるレバー式のカポが発売されていることが分かり購入した。(当ホームページの「ブログ」で紹介している) さらに、カポのアールが指板に沿うという画期的な「スタカポ」というものも発売されている。
 さらに2021年になって押弦部分がSHUBBカポよりも柔らかく指で押すと簡単にへこむカポを入手した。「D'Addario Pro Plus Capo」である。(アコギラボの「Facebook」で紹介している)これは今までのダダリオ社の人気カポ「NS Capo」とほぼ同じフォルムで、アールをややゆるめにし、押弦部分を厚めで長めの弾力性のある柔らかい新素材にして、クラシックギターからアコースティックギター、エレキギター、12弦ギターにまで対応できるようにしている。この弾力のある柔らかいパッドにより、様々なギターの指板のアールの変化に適度に対応し、全弦を小さめの圧力で押弦でき、カポ装着によるチューニングの狂いを非常に小さくしている。この柔らかい新素材の耐久性が唯一の不安点であるが、まだ入手したばかりで耐久性については未知数である。

 指板とカポのRが合っているかどうか確かめる方法で一番確実なのは、弦がないときに指板かフレットとカポを合わせてみる方法である。端や中央に隙間ができていないか確認するのである。
 指板とカポのRが合っていて、弦高が適切な低さであれば、カポ装着によるチューニングの狂いは、ほとんどないはずである。