02 ギターの歴史と進化

 ギターの起源は、いつ頃の、何であったのであろうか?
 それを石器時代の弓矢の弓だとしたら、ハープやバイオリンや琴などすべての弦楽器の起源になってしまうので、そこまでさかのぼるのはやめておこう。 ギターと他の弦楽器を区別するとき、何が基準になるのであろうか。楽器分類学上、複合弦鳴楽器の分類はまず共鳴板に対して弦が平行か(リュート族)、垂直か(ハープ族)に分かれる。さらに、撥弦(はつげん)楽器と擦弦(さつげん)楽器に分かれる。撥弦楽器はハープ・マンドリン・三味線などで、指やピックなどで弦を直接はじいて音を出す楽器のことをいう。擦弦楽器はバイオリン・胡弓などで、弓の毛で弦をこすって音を出す楽器のことをいう。ギターはリュート族の撥弦楽器であるが、その中でもフレットで音程を変化させるという特徴がある。

 では、ギターの特徴である「フレットの付いた撥弦楽器」のルーツは何であろうか。
 ・14~15世紀:はっきりした年代は不明であるが、14世紀あたりからリュートと呼ばれる弦楽器がアラビアで登場する。初期は2本のガット弦を1組として4組であった。これを複弦4コース8弦という。ボディはマンドリンのようにバックがラウンドしており、フレットを持っていた。リュートは次第に5コース、6コースと弦が増えていきボディも大きくなる。現在の楽器分類でも前述のように共鳴版と弦が平行な楽器を「リュート族」と分類し、ギター・バイオリン・マンドリン・三味線などの起源とされている。 現在でも広く弦楽器製作家のことをLuthier(ルシアーあるいはリューティエ)という。これは「リュートを作る人」という意味である。

 ・15~16世紀:15世紀になるとフラットなトップとバックで、フレットがあり、ボディ中央にくびれを持つ現在のギターの形に似た復弦6コース12弦のビウエラという弦楽器が登場する。ギターの起源をこのビウエラとする説が多い。バイオリンもこの頃から登場する。

 ・16~17世紀:ギターという名前が登場する。ビウエラを小型化したような復弦4コース8弦で、大衆用の唄伴奏楽器として広まり、ビウエラ奏者からは「ガチャガチャ掻き鳴らす楽器」と言われていた。現在ではルネッサンスギターと呼んでいる。この頃リュートが全盛となる。

 ・17~18世紀:手軽なギターに人気が出てくる。この頃は復弦5コース9弦(低音のみ単弦)が多く、現在ではバロックギターと呼んでいる。徐々にリュート、ビウエラの人気が落ちてくる。

 ・18世紀後半:ついに現在と同じ単弦6弦のギターになる。まだボディは小さく音量も小さいが、フランスのラコートなどの有名製作者が登場し、ギターの第1期黄金期をむかえる。アグアド、ソル、カルカッシなどの名ギタリストや作曲家が登場し、現在でも演奏されている名曲も多い。この頃のギターを現在では古典ギター(19世紀ギター)と呼んでいる。

 ・19世紀後半:現在のクラシックギターの原型がアントニオ・デ・トーレス(1817~1885)によって製作される。音量追求のためボディは大型化し、現在のクラギのスタンダードであるファンブレイシングが確立した。また、タルレガ(1852~1909)によりアルハンブラ宮殿などの名曲が作曲され、20世紀になるとセゴビア(1892~1987)などの名演奏でギター音楽が芸術の域まで評価される。

参考文献:「図説 ギターの歴史」ペーター・ペフゲン著

 アコースティックギターの歴史年表
  1833年:C.F.Martinがドイツからアメリカに渡りニューヨークでギター店を開始
  1838年:Martinがニューヨークからナザレスに移り小型ガットギター製作を開始
  1894年:O.H.Gibsonがマンドリン製作を開始
  1920年:Gibsonがスティール弦のアーチトップギターL-5を発売
  1922年:Martinがスティール弦のスモールボディ・フラットトップギターを発売
  1926年:Gibsonがスティール弦のスモールボディ・フラットトップギターを発売
  1930年:MartinがOMモデルを発売
  1932年:Martinがドレッドノートモデルを発売
  1933年:Martin D-45登場
  1937年:Gibson SJ-200登場
  1942年:Gibson J-45登場
  1952年:A・ドロンジがニューヨークでGuild社を設立
  1966年:YAMAHAが国産初のフォークギターとなるFG-180とFG-150を発売
  1970年:フォークギターブーム到来
  1980年:フォークギターブーム下火になる、アコースティックギター暗黒の時代が始まる
  1995年:クラプトンなどの影響による、アコースティックギターブーム再来

 ギター製作家は何を目標にギターを設計し、製作してきたのであろうか。そもそも、ほぼすべての楽器の進化の歴史は音量の拡大の歴史でもある。ギターも同様で、ルネッサンスギター、19世紀ギター、クラシックギター、アコースティックギター、エレキギターと音量はどんどん大きくなってきている。それに伴い、弦も進化しているが、エレキ・エレアコを除くギターの進化は、まずは弦の振動エネルギーを少ない損失でいかにしてトップの振動に変換するかの効率度合の進化である。

 このトップの振動エネルギーをまず確保してから、そのエネルギーをどのように使って音を作り上げるかになる。音質は、アタック、減衰、サスティン、輪郭、倍音などの要素によって作られる。
 「アタック」とは音の出だしのことで、弾いてから音が出るまで素早さや出方の特徴をいう。弾いてすぐにスパーンと音が前に出ることを「レスポンスが良い」ともいう。「減衰」とは出た音の消え方で、なかなか消えず伸びのある音を「サスティンが長い」とか「サスティンがある」という。「輪郭」は角が立った攻撃的な音か、丸みのある優しい音かである。「倍音」は一つの音を引いた時にその音以外の振動数の音が複雑に含まれているか元の音の要素が大きいかである。倍音の多い音は広がりはあるが音の芯は薄まる。1本の弦を弾いた時他の弦も鳴って複数の音が響くこともあるが、これは「共振」と言って倍音とは異なる。
 基本的にはこれらの要素は相反するものが多い。つまり、レスポンス良くアタックが強調される音を作ると、そこに基となる振動エネルギーを使うため、サスティンにまわすエネルギーは減る。芯のある音にしたいと力木を調整すると、倍音成分は減る。個々の音をはっきり出るようにすると、和音の分離は悪くなる。低音を強調すると高音はスポイルされる。このように、あちらを立てればこちらが立たずの連続なのである。すべては、どこで折り合いをつけるかにかかってくる。

 しかし、各方面に振り分けるためにも、基となるトップの振動エネルギーは大きい方が、振り分け方のバリエーションも増え、振り分けられた個々のエネルギーも大きくなる。したがって、弦の振動エネルギーをいかに効率よくトップの振動に変換するかが最重要課題となる。ここではこれを「トップの振動効率」と呼ぶことにする。個々の要素は音質の問題でもあり各人の好みもあるため、以降の各要素の説明では、なるべくトップの振動効率にしぼって話を進めることにする。