12 ヘッド

 ヘッドとはネックの先についている頭の部分で、弦を巻き取りチューニングするためのペグ(糸巻)が付いている。また、ヘッドのデザインとヘッドに付けられたロゴでギターデザインの個性が出るため、ヘッドは各メーカーの顔となっている。ギターのヘッドは大きく分けてソリッドヘッドとスロッティッドヘッドの2種類がある。

 アコースティックギターのヘッドの多くはマーチンD-28などに代表されるソリッドヘッドである。ソリッドはいわゆる板状のヘッドで、ペグのポストを出すための小さな丸い穴を6つあけるだけなので強度もあり、指板幅も細めにでき、金属弦ギターに向いている。また、手間とコストがかからず量産ギターに向く。

 スロッティッドとは「溝があけられた」という意味で、一部のアコースティックギターおよび、ほぼすべてのクラシックギターに採用されている、2つの溝があけられペグのポストがその溝を横切るように配置されている。2つの溝にはある程度の幅が必要なため、細めの指板にはあまり向かない。したがって、アコースティックギターでスロッティッドが採用されるのはフィンガーピッキング向きの指板幅が広めのものが多い。ナイロン弦は金属弦に比べ弦自体が太く、巻き上げる長さも多くなるため、ポストの直径が太くなり、巻く部分の長さも必要になる。このためソリッドの場合は太目のポストが長めに出っ張り、見栄えが悪いことと、多く巻き取るため巻けば巻くほどナットからの弦の角度が変化し、弦のテンションが一定しないという問題が出る。スロッティッドの場合はポストを太くでき、巻き数が増えてもナットからの弦の角度は変わらないためテンションが確保できる。クラシックギターのほとんどがスロッティッドヘッドなのはこのためである。

 逆に金属弦は巻き上げる長さが少なく、ポストは細めで長さも必要ない、さらにソリッドヘッドの場合は巻く回数によりナットからの弦の角度が調節でき、少しではあるがテンションをコントロールできるというメリットもある。

 ギターのネック裏のヘッドの付け根に注目すると、その形状は様々である。多くのギターは写真No.1のように特に何の変化もなくネックからヘッドへ自然に削られている。写真No.2では、付け根の部分がやや出っ張っている。写真No.3では独特な三角形の出っ張りになり、写真No.4に至っては出っ張りがさらに大きくなり反り返るまでになっている。
 このネック裏のヘッドの付け根の出っ張りを「ボリュート(Volute)」と言う。このボリュートは何のために出っ張っているのであろうか。

(A)ネック強度アップのため
 ヘッドはネックに角度をつけて接着されていたため、その部分が衝撃などにより折れやすくなる。最近はネックからヘッドまで1本の木で成形するため強くはなっている。しかし、ネック・アジャスト仕様のギターはトラスロッドが入る溝をあけるので、付け根部分の中央の強度がより弱くなる。このため付け根部分を太くして強度のアップを図っている。

(B)演奏のしやすさのため
 たとえば10フレットあたりで演奏し、急に1フレットを押さえねばならないとき、素早く左手をヘッドの付け根まで戻す。このときネック裏のヘッドの付け根が盛り上がっていたらそれがストッパーとなり、目で確認しなくても1フレットを押さえることができる。

(C)装飾のため
 何もないより独特な形になっている方が豪華に見える。日本人は質実剛健で合理性を重視する傾向があり、楽器の装飾にはあまりこだわらないと言う方が多いが、欧米人は楽器に貝をちりばめたり、ネックヒールに彫刻を施したりなどを好むようである。

 写真No.2は「The Fields」で主に(A)と(B)を目的とした形状と言えそうである。
 写真No.3は「Martin D-28」で主に(A)と(C)を目的とした形状、この独特な三角形のボリュートは「ダイヤモンドボリュート」または「トライアンギュラー」と呼ばれている。
 写真No.4は「Somogyi」で(A)(B)(C)すべてを網羅し、特に(B)を重視していると言えそうである。

 ちなみに、ボリュート本来の目的は19世紀から20世紀初頭のヨーロッパクラシックギターに多く見られる装飾としての意味合いが強いようである。そもそも「ボリュート(Volute)」とは「渦巻き形」を意味し、古代ギリシア建築における渦巻き形装飾のことである。現在のギターのボリュートに渦巻き型はないが、昔はネック裏にグルグル渦を巻いたような装飾が施されていたのではないだろうか。強度とか弾きやすさとかのメリットは、後に追加され、装飾目的が徐々に減っていったのではないだろうか。しかし、装飾渦巻きが付いていては弾きにくそうである。