11 ナット

 ナットはブリッジについているサドルと共に弦の振動部分の両端をささえる役目を持つ。このため、ほとんどはサドルと同じ材質で、牛骨やプラスティックなどである。サドルには弦の振動とともに自身も振動し、効率よく確実にブリッジを通してトップに振動を伝えるという役目がある。このため、ナットも弦の振動とともに自身も振動し、効率よくネックを通してトップに振動を伝える役目があると思いがちであるがそうではない。「ネック」で述べたが、ネックとナットは自身が極力振動せず、がっちりと弦の端をささえる方がトップはより振動するのである。

 ナットの役目は弦の振動を支えることのほかに、弦間と弦高をつくり、チューニング時にはスムーズに弦を移動させることにある。つまり、弦が通る溝の加工精度が非常に重要になる。溝の幅が狭すぎると弦が溝から浮き上がりナットに密着せずしっかりと支えることができない。溝幅がきつかったり溝の底面の仕上げが荒いとチューニング時に弦がすべらず、ペグを巻いてもナット上の弦が移動しないため、ペグとナットの間の張力だけが上昇し弦をはじいても音程は上がらない。さらにペグを巻くと、一気に「ギンッ!」と音を立てて弦がナット上を移動し、音程も一気にシャープしたりする。きちんとチューニングしたのに、弾いているとだんだんシャープしてきたりする場合は溝の精度に問題がある場合が多い。溝幅が広いと正しい弦間をキープできなかったりする。また、ペグのポストに向けての角度も重要になる。

 サドルと違い、ナットは弦との接触面がなるべく指板寄りの端の1点が望ましい。ナットの角度がゆるく、指板寄りの端とペグ寄りの端の2点で弦が曲がった場合、チューニング時に弦がナットに引っかかる可能性が増す。また、溝ばかりでなくナット自体の指板やヘッドとの接触面が合っていないと不安定になり弦の振動をしっかりささえられず、弦の振動に悪影響を及ぼす。

 このように、ナットの加工はサドルに比べて非常に精緻な技術が必要になる。加工経験があまりない場合、少し溝を深くしたり底部を磨いたりするほかは、専門リペアマンに任せた方がいいと思われる。