09 ネック

 ネックはボディに取り付けられる棹(さお)である。その「ネック」には、弦を支える「ナット」、フレットにより弦の長さを変えて音程を作る「指板」、弦の端を巻き取ってチューニングを行うペグが取り付けられた「ヘッド」の3つが付いている。さらに、アコースティックギターは弦の張力が大きいため、ネックの中に反りを補正するトラスロッドが入っているものが多い。

 このようにネックには色々なものが付き、それぞれ役割を担っているが、ネックの役割をあげてみると、弦の一端をささえる、弦高やネック形状による弾きやすさをつかさどるということである。

 まず「弦の一端をささえる」であるが、どのようにささえるのが音に良い影響を与えるのであろうか。トップ・バック・サイドと読んでいただいた方なら予想できると思うが、ネックは自身が振動せず、がっちりと弦の端をささえる方が理論上トップはより振動する。弦の両端が共に良く動くと、弦自身の振動を阻害し一番振動して欲しいトップの振動も弱くなる。サイドと同じで、ネックは弦の端をがっちりと受け止め、6本の弦の張力(約75kg)に屈することなく、自身はあまり振動しないほうが望ましい。そのため振動効率だけを考えれば、ネックは太く、硬く、重いほうが良いのであるが、そうすると重量バランスがヘッド寄りになりすぎて構えにくいことと、ネックが握りにくくなり弾きにくくなることが問題になる。

 ここでも程よい折り合いが重要になる。楽器である以上いくら振動効率が良くても、弾けない、弾きにくいでは困る。ネックの形状はプレイアビリティに大きく影響するところであるので必然的に握りやすい太さや形状は決まってくる。では、その形状で弦の張力に耐え、弦の振動を受け止め、重量バランスを崩さない材は何がいいのか。しなやかで粘りがあり狂いが少ない材ということになる。このようにネックは要求される性能が比較的絞られており、アコギの場合は弦の張力も大きいため材の選択肢は少なく、ほとんどのギターのネック材はマホガニー系が使われている。また、ネックの条件を満たすために複数の材を貼り合せたり、高級手工ギターではトラスロッドの外側にさらにカーボンロッドを埋め込んだりして補強しているものもある。

 しかし、マホガニーも乱伐が進み良質のものは手に入りにくくなっているため、クラシックギターでは高級機種に良く見られるセドロなどが、最近のアコギにも使われている。年間に大量の本数を製作するMartin社では全ギターのネックにマホガニーを提供できなくなっており、Authenticなどの一部の上位機種をのぞいたほとんどの機種のカタログのネック材の表記は「Select Hardwood」とし、マホガニー系の材の複数の候補から入手できた材を使用している。ネックにおいてはマホガニーに近い特性の材であれば音への影響はほぼ無いに等しいため私は気にしないが、「ネックはマホガニーでないといやだ」との意見もネットでは良く目にする。

 次に「弾きやすさをつかさどる」である。ネック形状には、幅、高さ、断面の形などがあるが、弾く人の好みがあるため、この形状がベストというものはない。慣れの要因も大きく、「幅広は弾けない。」と言っていた方が、音を気に入ったため幅の広いネックのギターを仕方なく購入したところ、1週間ほど弾いていたら何の違和感もなく弾けるようになった、という話をよく聞く。

 弦高とは、弦とフレットとの距離のことで、一般的には6弦と1弦の12フレットでの弦とフレットとの間のスキマの長さを言う。ギターの種類やプレイスタイルによって変わるが、一般的な適正弦高は、アコギの場合6弦で3mm、1弦で2mm、クラギの場合6弦で4mm、1弦で3mmほどである。
 普通、弦高が高めだと音にハリが出て音量もやや大きくなるが、押さえにくくなり、音程が悪くなる。弦高が低めだと押さえやすく音程もよくなるが、音量がやや小さくなり、ビビりやすくなる。

 これらから、弦高を低めにしても音にハリと音量があり、ビビりにくくすれば最良となる。ルシアーはこの難題を克服するため、音にハリと音量があるボディを設計し、低めでもビビりにくいネックを作りあげる。音がビビる要因は、ナットやサドルの問題、フレットの高さの不揃い、ネックの逆反り、ネックの仕込み角の問題などがあるが、ナット、サドル、フレットに問題がないとした場合、ネックの反りと仕込み角の調整でビビりを克服できることになる。

 弦が振動する時、中央部が膨らんだ紡錘形になる。指板はそれに沿った形状の方がビビりにくい。つまり、ネックは真っ直ぐな方がよいというイメージであるが、ほんのわずか順反りしているほうがビビりにくいのである。ただの順反りでは弦高が高くなるので、ネックをボディに取り付ける角度を調整することにより、わずかに順反り気味にし、弦高が低めで、ビビりにくいギターになる。これは、単なる順反りが良いと言っているのではなく、あくまでも製作段階でそれをふまえた高い精度のネックの仕込み、ナット、サドル、フレットがあっての事である。