08 ブリッジ・サドル

 ブリッジはエボニーやローズウッドなどの比重の大きな木で作られ、トップに接着されている。トップの裏に貼られているブリッジプレートに、ブリッジピンなどで弦の一端を固定し、サドルからの弦の振動をトップに伝える役目がある。

 出来るだけストレートに弦の振動をトップに伝えたほうが効率が良いため、以前の上位機種は密度が髙く硬いエボニーを使用しているものが多い。しかし、良質なエボニーが入手できにくくなっている点や、ピン穴の間が狭く堅すぎる木はそこが割れやすいことや、重すぎるとトップの振動に悪影響を及ぼしやすいこと、大きすぎるとトップの振動すべき部分が狭くなるなどの要因により、近年の高級手工ギターのブリッジはサドルをしっかり差し込む溝を確保する以外は比較的薄め、小さめの軽量化がすすみ、材もエボニーからローズウッド系に移行しつつある。

 (写真1)はMartin D-28とGibson SouthernJmboのブリッジ比較である。ちなみに比較は私の所有する機種での比較になっている。同じメーカーでもモデルにより材やデザインは異なる。
 ブリッジの下部あるいは上部がふくらんでいるブリッジを「ベリーブリッジ」と言う。Martinのように下部がふくらんでいるものを「ボトムベリーブリッジ」あるいは「ダウンベリーブリッジ」と言い、Gibsonのように上部がふくらんでいるものを「アッパーベリーブリッジ」と言う。
 ブリッジの材はMartinはエボニー、Gibsonはローズウッドである。サドルはどちらも牛骨だが、厚さがMartinは3mmで、Gibsonは3.5mmとやや分厚くなっている。ブリッジ自体の大きさや厚みはほぼ同じである。
 ブリッジピンはどちらもブラスチックで色やデザインは異なるが、配列やサドルからの距離は両者ほぼ同じである。
 Gibsonにはブリッジピンの両外側に白いドットがあるが、これはボルトでブリッジを固定しているため、ボルトの穴を埋めているものである。Martinのブリッジは接着剤での固定なので埋め込みのドットはない。この固定方法の違いが一番音に影響しているかもしれない。
 このように、ブリッジだけ見てもMartinとGibsonには相違点がそれなりにあるが、もっとも目につくのはベリーブリッジの上下逆ではないだろうか。Gibsonは1949年にベリーブリッジを採用したが、すでにMartinがボトムベリーブリッジであったので向きを逆にしたようである。この上下の違いが音へどのように影響するかは分からない。しかし、弦の張力によりブリッジには下部が上に持ち上げられる力がかかるため、強度の面ではGibsonの「アッパーベリーブリッジ」の方が理にかなっているようでもあるが、Gibsonはボルト固定であるからあまり関係ないかもしれない。

 サドルは弦が直接乗り、振動を直接受けるので硬い材質でないといけない。柔らかい材質だと弦の振動を吸収してしまうし、弦に押し込まれてすぐにへこみ、弦高が低くなる。牛骨・象牙などの天然素材から、プラスティック・タスク・合金・カーボン・セラミックなど幅広い材質が使われる。硬くて軽いものが理想であるが、硬いものは重くなるのが普通で、ここでも折り合いが難しい。また、硬すぎるものは高音成分が強調されやすい傾向がある。一般的には牛骨やプラスティックが多い。

 加工精度としては、サドルの下面は平滑に削られ、ブリッジの溝にピタリとはまる必要がある。この下面の処理が甘く、ブリッジとの接触面積が小さいと弦の振動をきちんとトップに運べない。もちろん、ブリッジの溝の平滑度も重要である。また、サドルの上面は指板のアールに合わせた曲面になっていないと、一部の弦のみ弦高が不適切になったり、演奏しにくくなったりする。

 サドル上面の山の頂点を前後に移動させることにより(特に2弦の弦長を長めにする)オクターブ音程の調節をしているサドルがあるが、3mmほどの幅の一般的な薄めのサドルでは、さほどの効果は期待できないという考えもある。もちろん効果が少なくとも、その小さなことの積み重ねが大切なのであるが、それよりもむしろ、サドルの山からブリッジピンにかけて作られる弦の角度にサドルの角度が合っており、サドルが弦を点で支えるのではなく、なるべく多くの線の部分で支えるようにする方が、振動をより有効にトップへ伝えるという考えもある。薄めのサドルでオクターブ調整をするためナットをデコボコさせるとサドルが弦を点で支える箇所が生じてしまうのである。音程の補正を取るか、振動の伝達性を取るかの選択になる。これを両立させるためにはサドルの厚みを増やせばよいが、そうするとサドルの重量が増えるため振動効率の問題も出てきそうである。ソモギのギターは(写真2)のようにサドル幅を厚く6mmにして音程補正と弦の接地部分を稼いでいるが、サドルの埋め込み部分を浅くしたり、ブリッジ形状を軽量化するなどして、サドルが厚くなったディメリットを相殺している。このようにサドルにおいても何を優先させるかで様々な形状が変わることになる。

 ブリッジピンの配列にも特徴がある。
 (写真3)のMartinとJames Olsonのブリッジピンの配列形状に注目いただきたい。Olsonは円弧状に配列されている。この円弧配列はKevin Ryanに代表される、Olsonから影響を受けているアメリカのルシアーにも見られる。
 Olsonはこの円弧配列のメリットとして「直線配列よりもピン穴とピン穴の間の長さが大きくなるためブリッジに亀裂が入りにくい」と言っている。確かにその効果は多少なりともあるのかもしれないが、私はサドルからピンまでの長さのバラつきが気になる。3弦の長さは6弦の2倍ほどになっている。
 このサドルからピンまでの長さは、サドルからピンへの弦の角度に影響し、この角度は弦のテンションに影響する。仮に全弦の角度を合わせたとしても弦によりテンションはばらついているし、変則チューニングをするともっとばらつくので気にするレベルではないのかもしれない。しかし、実際弾いてみると先入観があるからか、3弦4弦のテンションはわずかであるが緩めに感じる。そのためだけではないと思うが独特の倍音を感じ、Olsonの音になっているようにも思う。

 (写真4)のThe Fieldsのブリッジピンの配列形状については、パッと見ただけではMartinとFieldsのピンの配列はどちらも直線状で変わらないように見えるが、良く見るとFieldsはサドルと平行になっている。Olsonのブリッジピン配列形状で述べたように、私はサドルからピンまでの長さがそろっている、つまりサドルからピンへの弦の角度がそろっていることを気にするので、Fieldsのサドルと平行なピン配列を見るととても安心し、美しいと感じる。この平行配列は、近年多くのメーカーが採用しているようである。(写真2)のソモギも平行配列である。
 Martinのピン配列でも、ピン穴から溝をうまく切ることでサドルからピンへの弦の角度をそろえることは可能であるが、ピン穴から平行になっている方が、私は美しく見えるような気がする。