サイドとはボディの横板のことである。サイドはトップとバックの振動をしっかりささえて、よりトップとバックが振動しやすいようにする役目がある。ボディを太鼓にたとえると、トップとバックは太鼓の皮、サイドは太鼓の胴にあたる。胴が皮と同じレベルで振動すると皮の振動は相殺されてしまう。サイドやネックも含めギター全体がビンビンに振動すると大きな音が出そうに思うが、サイドはなるべく振動しにくいほうがトップとバックは、より振動するのである。スピーカーボックスで、箱全体が振動してはスピーカーのコーンの振動に悪影響が出るので、ボックスは厚く、重く、しっかりとした土台に設置するのが良いとされているのと同じである。
このようにサイドはなるべく重いほうがいいが、比重の大きい材は必然的に硬くなり、割れやすいので厚みも必要になる。サイドはボディラインに沿って曲げるため、厚めの硬い材は曲げにくいし曲げたとき割れやすい。したがって、見た目もいいからとサイドには普通はバックと同じ材が使われ、ローズウッドやマホガニーなどが多い。
この問題を少しでも解消しようと、近年の手工ギターの高級品ではサイドをあえてラミネート(合板)にするものが出てきている。今までの感覚では、良いギターはオール単板で、廉価版が合板を使用するというイメージであるが、廉価版の合板はいわゆるベニヤ板で、反りにくく割れにくいというほかには音質的に何のメリットもない。しかし、上級手工ギターのサイド合板(トップとバックはもちろん単板)は、外側は見栄えのよさからバックと同じ材を使い、中側はトップとバックの振動を支えやすい硬めの材を重ね、ボディラインに合わせて曲げながら圧着して貼り合わせるという、かなりの手間をかけて作られている。これにより、厚く強固で重く割れにくいサイドになっている。
この理論を突き詰めたのが、グレッグ・スモールマンによる設計・製作のクラシックギターである。
話はサイドからやや脱線するが、ここでスモールマンギターについて述べてみたい。グレッグ・スモールマンによる設計・製作のクラシックギターは20世紀終盤に登場し、ジョン・ウイリアムスなどのトッププロの使用で一躍有名になった。サイドのみならずバックまで材を何枚も重ねて貼り合せ、サイドとバックを分厚くし極端に振動しにくいようにしている。バックの役割は音の反射が大半となり、その反射をより有効にするためバックは丸みをおびさせたラウンド構造になっている。
さらに2mm未満の非常に薄いトップも、振動する部分はサウンドホールから下のロウワーバウトのみにし、そこには比重が0.18と木材では最も軽いバルサ材をカーボンファイバーで補強した、ラティスブレイシングという格子状のブレイシングが施され、それ以外はトップのアッパーバウトにまで厚い板を貼り付け余分な振動を殺している。
これにより、重さは普通のギターの1.5~2倍ほどになっている。このようにトップの下半分のみに振動を集中させることで、大きな音量を発生させる。さらに、サイドとバックとトップのアッパーバウトを極端に分厚くし剛性を高めることで弦の張力や振動によるボディフレームの余分なゆがみを無くし、純粋なトップの振動を引き出している。何度か弾く機会があったが、本体の重さと出てくる音量とクリアな音色は驚くべきものであった。振動させるべきところ以外は重く厚くする所はまさにスピーカーボックスのようなギターである。最近はアコギでも、このスモールマンの設計を参考にしたギターが徐々に出てきている。