01 はじめに

「良いアコースティックギター」から、どのようなギターを連想するだろうか? 私が今までで様々な人から聞いたこと、ネットなどで見たことがある「良いアコギ」の条件を思いつくままに挙げてみると、

 1. 音色の良いギター
 2. 音程の良いギター
 3. 大きな音の出るギター
 4. サスティンがあるギター
 5. 歯切れの良い音のギター
 6. 小さいボディのギター
 7. カッタウェイがあるギター
 8. 弾きやすいギター
 9. 丈夫なギター
 10. スケール(弦長)が短めのギター
 11. 値段の高いギター
 12. 木目がきれいなギター
 13. ブラジリアンローズウッドのギター
 14. 有名ブランドのギター
 15. 新品ギター
 16. ヴィンテージギター
 17. あのプロが使っているギター
 18. 誰も持っていないギター
 19. 貝などの装飾が多いギター
 20. 自分が生まれた年に出来たギター

 人によりこれらの中から優先順位付きでいくつかがあがるのであろう。相反する内容もある。しかも、1.の「音色の良いギター」だけでも、人によって「良い音色」が異なる。「倍音が多い音」「まろやかな音」「パンチのきいた音」「高音から低音までバランスよく出る音」「とにかく低音がズドンと出る」…。つまり、何が言いたいのかというと、一人ひとりそれぞれに「良いギター」というものがあるということである。
 ある人が「これは最高のギターだ」と惚れ込んで購入し、友人に見せたりネットで披露したりする。しかし、良いギターの基準が好み、プレイスタイル、経験年数、演奏技術などにより千差万別であるので、反応は様々になる。人のギターの話を聞いたり、人とギター談義を行うとき、この「人それぞれ」を良く認識することが大切である。

 私のプレイスタイルはフィンガーソロ中心で、金属弦もクラシックギターも弾く、女房が歌、私がギター伴奏の夫婦ユニットでも活動しており、フラットピッキング、コードストロークも演奏する。ギターに求めるものは、第1に音質で、倍音が多めで甘く優しいやや高音よりの音質を好む。第2は演奏性で、メインの指弾きの場合はテンションはややゆるめ、弦高はやや低目を好む。きれいにこしたことはないが、見た目や材質やメーカーにはあまりこだわらない。中古でも新品でもあまり気にしない。値段は安ければありがたいが、最近はネット情報の浸透により、昔の古道具屋のように相場価格よりも極端に安く出ているいわゆる「掘り出し物」を目にすることは非常に少なくなったため、相場よりややお買い得感があれば良しとしている。簡単にいうと「音が気に入って弾きやすく、それに見合った値段以下ならベスト」というのが私の現在である。40年以上の間にギターの好みは色々と変わっていったが、こんなあたりまえのひなびた感じに落ち着いた。

 ただし、変わっていく途中で、ピックガードが付いているのが欲しいとか、井上陽水と同じモデルがいいとか、マーチンが欲しいとか思っていたので、見た目やメーカーにこだわる人の気持ちはよく分かる。また、演奏スタイルも結構幅広いので、演奏曲によりギターに要求するものが異なる場合がある。このため、キャラクターの違うギターが複数必要になってしまう。(と大量所有を正当化している)

 これから述べていく内容は、ひとりのギター好きが今までの経験と感想と好みをベースに、個人的意見を好き勝手に述べたものである。私はこういう視点でギターを見て、選んできたということである。正しいのか誤っているのか甚だ怪しい所もあるとは思うが、数十年の間に、何百本ものギターを弾き、店員やギター製作者、プロプレイヤーや友人などからの生の声、文献やネットからの様々な情報を自分なりに取捨選択し解釈してきた結果である。参考意見として寛大な心で見ていただきたい。有識者の方から見れば、何と稚拙な意見かと驚かれる内容もあるかもしれない。しかし、前述のように人それぞれである。一人の単なる意見としてご容赦願いたい。

 まず、最初にアコースティックギターの構造・設計・材質などについて述べてみたい。ただ、これは非常に複雑難解なことで、単純に「こうならばこういう音のギターだ。」と言い切ることができない。前述のように、まず音という感覚的なものはそれを言葉で表現するだけでも人それぞれで解釈が異なる。
 また、厄介なことにギターの音というものは多くの要素が影響し合って作られる。音に影響する度合いも要素により異なる、一つの要素が大きく影響することもあるが、大半はほんの小さな影響しかない要素である、それらが沢山積み重なってそのギターの音が決定する。
 さらに、ギターの主たる材質は天然素材の木である。同じ種類の木でも産地・年代・保管状態・木取り製材方法などにより大きく特性は異なり、全く同じものは決して存在しない。

 このように、個々の要素は複雑であるが、アコースティックギターの音が出る仕組み自体は非常に単純である。箱に棹と糸巻きを付け、弦を張り、指で弾いて箱を振動させて音を出すのである。かなり適当に作っても音は出る。しかし、それゆえに楽器としての質の幅は非常に大きくなるため、良いギターを見つけることは難しく、その楽しみは無限に広がるのである。「一生もののギターを見つけた!」と思ってなけなしの金をはたいて買っても、それを上回るギターを探してしまい、出会ってしまうのである。あるいは自分の演奏技術が上がるとギターに要求するものも変わってしまうのである。すると私の場合、買い替えるか、追加で買うことになってしまうのである…

 多くの人が「良い音」と思う「素晴らしいギター」は、その多くの小さな要素一つひとつに目を向け、丁寧にこだわりを積み重ねて作られたものだと私は思っている。「バックがマホガニーのギターはこういう音だ」なんて簡単に言えない。マホガニーの持つ音の特性は、そのギターの音を作り出す要素の何十分の一にも満たないかもしれない。ひとつの要素だけでギターの音を特定するのは不可能に近いのである。
 しかし、だからといって「予測不可能」で片付けてしまうと、ギターの音について何も述べることができない。全体から見ると小さな、音の要因ひとつひとつを考え、そのいくつかの要因を組み合わせて予想することは不可能ではないはずである。しかし、予想後に実際弾いて予想との差を認識し、ギターの奥深さを実感するのである。

 では、ギターの音を作っている小さな要因を、思いつくところから順に述べていこうと思う。なお、2017年から2018年にかけて書いてきた文章のため、古い情報も含まれており、現在とは状況が異なっている内容があるかもしれないという状況をふまえてお読みいただきたい。
 その前に、現代のアコースティックギターに至った流れと、ここで用いている各名称について確認しておきたい。