52 C.F.Martin CTM D-28 2010

C.F.Martin CTM D-28 2010

 日本での1970年代のフォークギターブームにおいて、C.F.Martinは神であった。大卒初任給平均が8万円の当時、定価はD-28が34万円、D-45は78万円で、現在の貨幣価値ではD-28が90万円、D-45は200万円ほどしていたことになる。私も含め当時の日本のギター弾きにとってはMartinは遥か雲の上の存在であった。レコードで音を聞いたり、テレビでプロが弾いている映像を見たり、大きな楽器店でガラスケース越しに指をくわえて眺めることしかできなかった。

 そのMartinギターの代表モデルはD-28で、近年になりGibsonのJ-45に販売台数を抜かれてしまったが、それまでは、世界で最もポピュラーな量産ギターはD-28であった。世界のギターメーカーがD-28を基準としてアコギの設計をしてきたと言っても過言ではない。
 現在のスタンダードD-28は定価41万円、実売価格は30万円前後である。70年代に比べると随分入手しやすい価格になったが、昔フォーク少年であったオヤジは今でもMartin D-28と聞くと襟を正す刷り込みが抜けきらないのである。

 非常に状態の良さそうな「Martin CTM D-28 2010」を入手できた。CTMはカスタムのことで、Martinの日本総代理店のクロサワ楽器が2010年にMartinにオーダーした、ショップカスタムモデルである。

 2010年のCTMモデルは、トップ材のグレードを上げ、各部をフォークブームだった1970年代のD-28の仕様にしている。レギュラーモデルのD-28と異なる具体的な点は、トップのシトカスプルースを現在のD-45と同等のプレミアムグレードにしている。ヘッドのMartinロゴをデカールロゴにしている。ペグをグローバーのロトマチックにしている。ネックブロックに記載されているシリアルナンバーの上のモデル名がD-28ではなくCUSTOMになっている。である。

 このD-28は、バックにスレが少しある程度で、他はピックガードの弾きキズもほとんどなく、軽く磨いただけで新品のようになった。トップがプレミアムグレードだからかどうかは分からないが、D-28にしては倍音が多めできらびやかな音である。深みは少ないが音量もバランスも悪くない。ネックは適切で、弦高を少し調整するだけで問題はない。ハードケースもキズらしいものは無く、ずっと室内に置かれていたという感じである。これらから、このギターはワンオーナーで、昔のあこがれからD-28を買ったが、家で少し弾いてそのままになっていたものではないかと思われる。