25 C.F.Martin 000-18(1940)

C.F.Martin 000-18(1940)

 世界最大のアコースティックギターメーカーであるアメリカのC.F.Martin社は1833年創業で、これは創業者のクリスチャン・フレデリック・マーチンがドイツからニューヨークに移住し楽器店を開いた年である。1838年には現在のナザレスに製作工場を建てて小型のガットギターなどを製作していた。
 1922年に初めて金属弦ギターを発売し、1930年に現在も製作されているOMモデルを発売。その後は世界的アコギメーカーとして発展し、1960年代後半からはフォークブームに乗って莫大な本数のアコギを世界に販売。1960年後半には日本にも入ってきたが、ごく一部のマニアしか所有していなかった。ところが、日本にも1970年代からフォークブームが勃発し、Martinギターは日本のプロも使用し始め、一般ギタープレーヤーの憧れのブランドとなる。しかし、日本では初任給が8万円ほどの当時にD-28が34万円(現在の貨幣価値では約90万円)もしており、一般人には高嶺の花であった。

 このMartin社が、1930年から1945年までを自社のゴールデン・エラ期(Golden Era 黄金期)としている。優れた材が豊富にあった時期であり、さらに1929年からの世界大恐慌で製作本数が非常に減り、年間製作本数は1927年に5746本だったのが、1933年には半分以下の2494本までに下がった。(ちなみに2015年は50倍ほどの約11万5千本である)
 このため、この時期のギターは優秀な職人が少人数で時間をかけコツコツと丁寧に手作りしている。経営的には厳しかったが、材質・製作技術・音すべてにおいて楽器としてのMartinギターが最も充実していた時期である。第2次大戦中は職人が徴兵され、材も制限が加わったため、ゴールデン・エラ期の戦前の1941年までを特にプリウォーマーチン(Pre-War 戦前マーチン)と呼び、この頃製作された状態の良いギターは数も少なく、特別なものとして非常に高値で取引されている。もともとの製作本数が少ないうえ年月が経ち、状態の良いものは非常に少ないが、大切に弾きこまれたプリウォーマーチンは経年変化もあり、初めて弾く人は誰しも驚く爆発的なパフォーマンスを発揮する。

 大阪のヴィンテージギター専門店WAVERのHPでこれを見つけ、相場よりも安い値段であったため、すぐに見に行った。1940年製のいわゆるプリウォーマーチンなのに安いのは、ボディが割れて修理されているのではないかとか、弦高が高く弾きにくいのではないかとか、いろいろ不安があったが、戦前の後期のためネックも細めで弾きやすく、かなり弾き込まれているのかエボニー指板はやや減った所もあるが、丁寧に扱われていたらしくボディの割れやヘコミ等はトップ・バックには全くなく、サイドに少し打痕がある程度である。

 音はまさにプリウォーのそれで申し分ない。トップの塗装がぶ厚めのオーバースプレーのため値段が比較的安目だったのだ。その場でややへたりぎみのオリジナルペグを交換してもらい即購入。すごい音量で、各弦のバランスも良好、艶と深みの音色がたまらない。何よりもレスポンスの良さは特筆モノである。音数の多い、速いラグタイムなどを弾いても1音1音が固まらず綺麗に分離してハッキリ聞こえ、ついつい演奏速度が上がってしまうほどである。

 購入後、トップの分厚いオーバースプレー塗装がかなり気になっていたため、音の変化がどうなるのか全く予想がつかなかったが、2008年3月にトップ塗装をすべて剥がしてから薄めにリフィニッシュし、ナット・サドル・ブリッジも交換しセットアップは完璧なものになった。幸いなことに音量・音質・レスポンスの劣化はほとんどなく、板の割れとかもサイドのほんの一部以外ないため、見た目は近年もののようになった。このピカピカトップの000-18からプリウォーサウンドが出てくるのは非常に違和感がある。ぜひこのページの上にある「ギャラリー」ボタンからギャラリーに行き、このギターのトップとバックの写真をご覧いただきたい。このギターが本当に75年以上前のものかと疑われると思う。

 ちなみに、プリウォーのようなヴィンテージギターは貴重な文化骨董品であるからリペアは最低限にとどめ、オリジナルの状態を極力残すべきであるという考えと、ギターは音を出してナンボであり演奏するための楽器であるから、オリジナルの維持にこだわらず音色と音程と演奏性をキープするため手を加えるべきという考えがある。前者はコレクターに多く、後者はプレイヤーに多い。

 私の考えは後者であり、精度の悪い糸巻きは交換し、ネックの状態が悪くなれば一度はずしてリセットし、塗装が剥がれてくれば木そのものを保護するために塗り直し、弦高が下がらず演奏性が悪くなればブリッジを交換してどんどん弾くべきであると考えている。もちろんオリジナル価値は下がり、売る時は値段が下がってしまう。しかし、リセールバリューは気にせず、今弾くギターを楽器としてベストの状態にしておくべきだと思っている。