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Greven OM-C12F

 ヒロ・コーポレーションで初めてソモギを買った日、家で深夜まで弾きまくった。素晴らしいレスポンス、素晴らしい音の艶(ツヤ)、素晴らしい弾きやすさ、素晴らしい音量… 自分の演奏レベルが2段階ほど上がったような錯覚に陥るほどのギターである。

 明るい曲、速い曲、軽い曲、激しい曲などを弾いているとドンドン指が動く。左手も右手も力を入れずとも綺麗な音が出る。申し分ない。
 スローバラードを弾く、悪くない。素晴らしい表現力、素晴らしいダイナミックス…
 しかし、店を出る直前に弾いたグレーベンの音が思い出される。どんなに弾き方を変えてもあのグレーベンのあそこまで甘く優しい音はソモギでは出なかった。

 翌日もソモギを弾く、素晴らしい音色…、しかし優しさが欲しい…
 その翌日もソモギを弾く、素晴らしい…、しかし…、これにグレーベンが加わればどんなジャンルでも完璧だ…
 またその翌日もソモギを弾く、やっぱり素晴らしい…、しかし…、
 「ここまできたらグレーベンも買おうぜ!」
 と後ろで誰かがささやいたように聞こえた。

 そのささやきはソモギを弾いていない翌日の昼休みや仕事帰りの電車の中でも聞こえてきた。翌日とうとうヒロ・コーポレーションに電話した。
 「先日のグレーベンまだありますか? ホールドしてください。」

 次の休日の2002年5月末、ヒロ・コーポレーションに向かった。この1週間、夢にまで出てきたグレーベンは先週見たときよりも光り輝いて見えた。じっくりと弾いてみた。冨田氏がグレーベンに初めて作らせたという本格的な12F接合ギターで、12Fゆえの独特のクラシックギターのような丸く太い低音、優しい倍音豊かな中音、ソモギほどではないが十分響く高音。セットアップも完璧で非常に弾きやすい。音はいいが仕上げ精度が良くないといわれているグレーベンにしては仕上げも綺麗で、当時ではまだ普及していない材であったイングルマンスプルースとマダガスカルローズウッドの組み合わせであった。

 あえて難をあげれば5,6弦の7F以上のハイポジションでの音が、ややつまりぎみになることと、サドルの角度が甘く音程に若干問題があることで、サドルの角度は後日修正してもらった。

 John Greven ジョン・グレーベンはアメリカのポートランドに工房を構える手工アコギの個人製作家(ルシアー)である。天才肌の職人で、理論より感覚でグレーベン独特の音色を作り出す。仕上げや精度にややアバウトな物も見受けられるが、唯一無二の音色に魅かれるプレイヤーも多く、日本で人気のアコギタリスト押尾コータロー氏もグレーベンをメインで愛用しており、コータロー人気とともにグレーベンの日本での人気も(値段も)上がっていった。

 このギターは約2年間、私のサブギターとなったが最終的に5,6弦のハイポジションでの音のつまりのため2代目SomogyiとなるMD-C12F購入時に手放すことになる。