59 M-Factory 50 System (PM-50)

M-Factory ピックアップ 50システム (PM-50)

 ライブハウスや学校などの演奏でエレアコを使用する生徒さんが増えるにともないピックアップ、プリアンプ、ケーブルやセットアップなどの質問も増え、それに対応するためアコギ用アンプやプリアンプ、エレアコなどを新たに購入していった。ひととおり機材もそろい、アコースティックギターのピックアップがそれなりに分かり始めたころ、アコギ仲間のN氏から「大阪のライブスペース5th-StreetでM-Factoryのデモイベントがあるので行かないか?」とのお誘いがあった。
 M-Factoryとは、押尾コータロー氏など内外の多くのトップアコースティックギタリストや、いきものがかり、コブクロなどの有名ミュージシャンも使用する、プロご用達の最高峰と言われるピックアップシステムの開発、製作をしている工房である。代表であり製作者の三好氏は20年以上のキャリアを持ち、最近ではピラミッド弦の販売や、沖田ギター工房との二人三脚でギターの開発や製作にも力を入れている。その三好氏から直接M-Factoryのピックアップシステムの説明が聞け、さまざまな質問にも答えていただけるとのこと。三好氏とはアコギ仲間とのつながりでSNSやメールでは何度もやり取りをしていたが、実際に会ってお話をしたことはなかった。これはタイムリーで、またとない絶好の機会と喜んで参加した。

 このデモイベントに参加するまで、M-Factoryのピックアップシステムは前述のようにトッププロが大きなホールでも確実にナチュラルな音を出せる、重装備のヘビーなものだと思っており、自宅地下室で行う教室の発表会や、小さなライブハウスでしかギター演奏をすることがない自分にとっては分不相応の高級システムだという認識もあった。しかし、説明とデモ演奏を聴いて私は衝撃を受けた。


 M-Factoryのピックアップシステムは現在大きく3つに分けられる。
 トッププロが使用しているギター内部に超高性能プリアンプを仕込み(アクティブ)、外部コントローラーPM-500とキャノンケーブルでつなぐ最高峰の「500システム」。
 次に、500システムの内部プリアンプを除いて(パッシブ)、外部プリアンプPM-200とステレオフォンケーブルでつなぐ「200システム」。
 そして、ギター内部は200システムと同様で、外部プリアンプをPM-200から最近開発されたPM-50という小型外部プリアンプに変更した「50システム」である。
 「50システム」は最もライトなシステムであるが、ピックアップ本体は上位2システムと同じもので、PM-50は手のひらサイズながら妥協を許さない職人、三好氏の魂が注入されたものである。デモを行なったライブスペースでは、どのシステムも素晴らしいアコースティックギターサウンドを放ち、区別がつかないほどであった。大ホールやアリーナで演奏することがない私にとって50システムは待ち望んでいたものであった。

 50システムの導入を決意した私は、まずどのギターにピックアップを装着するかを考えた。以前の私は、ピックアップから拾った信号をアンプから音として出すのだから、その信号を途中で加工すれば様々な音が出せるので、ギターは音程がしっかりしていて弾きやすければ生音はさほど良くなくても十分であろうと思っていた。しかし、そのように過度に加工された音は自然なアコースティックギターサウンドからはかけ離れたものになるというのは最近徐々に分かってきていた。さらに、デモイベントで三好氏が述べた「ギターの音そのものをピックアップで拾って出力するので、良い音のするギターであればあるほどアンプから出力される音も良くなる」に非常に納得し、考えを改めていた。
 ピックアップを装着したギターはすでに2本持っていた。レッスン用として使用しているHISTORYにL.R.BAGGSのAnthem SLを後付けしたものと、Matonのエレアコである。それぞれ、一般的な後付けピックアップとエレアコの観点からは十分な音ではあるが、M-Factoryシステムとなるとそれらよりさらに生音が前に出るギターに装着したい。また、発表会やライブ演奏ではソロギターや歌伴奏、フィンガーピッキングやストロークなど演奏範囲は多岐にわたる。様々な奏法にも対応するオールマイティなギターでなければならない。いろいろ考えた結果、最終的に「Greven OM-12F」に装着することにした。

 Grevenに50システムを導入する、までは決まったが、その中にもいくつかの選択肢がある。M-Factoryの50システムとは、図1のようにボディ内部にM-Factoryオリジナルのコンタクトピックアップ(図1のA)というトップの振動を直接拾う小型マイクのようなものを貼り付け、サウンドホールには弦の振動を拾う着脱可能なサンライズのマグネットピックアップ(図1のB)を取り付ける。この2種類の信号をステレオフォーンケーブル(図1のC)でプリアンプPM-50(図1のD)に送り、プリアンプで信号を増幅し、音量バランスを調整して音を出すアンプにつなぐのである。
 このBのサンライズはオプションで、ダブルピックアップでいくか、Aのコンタクトピックアップだけのシングルにするかを選択できる。デモイベントで聞いたかぎり、コンタクトのみのサウンドでも十分だと思えた。シングルは図2のようにモノラルフォーンケーブル(図2のE)でつなぎ、ギター内部の配線もシンプルになるためボディの振動の妨げにもなりにくいとも考えていた。

 さらに、PM-50はステレオ入力、モノラル出力のプリアンプなので、シングルの場合図3のように分岐ケーブル(図3のF)を使うともう1台のエレアコをモノラルケーブルで追加できる。発表会などで生徒さんと二人で演奏する場合にも使える。しかし、この分岐ケーブルについて新たな悩みが生じた。ギター内部にプリアンプを持たない(パッシブ)の場合、ピックアップからの信号は増幅されず非常に小さい信号のままなので、プリアンプまでをつなぐケーブルやプラグは良質で長さも短め(1.5~3mくらい)でないと信号が劣化したりノイズが混入しやすくなる。当然分岐ケーブルも良質が求められるがパーツの問題もありなかなか難しい。分岐ボックスを作ろうかなどと三好氏に相談していたら、PM-50にモノラルインのジャックを追加してみるとのこと。この方法は私も当初は理想ではないかと思ったが、小型(縦10×横7.5×高さ3cm)のPM-50には2つのフォーンジャック、DCアダプタのジャック、5つのボリウム、1つのスイッチがあり、内部には基盤と9Vの電池まで入っている。フォーンジャックをさらに追加する余裕はないだろうと始めからあきらめていた。三好氏はそれを何とかしてくださるという。

 そして完成したのが上の写真である。横にモノラルインが追加されている。これにより、図4のようにスッキリと2台のギターが接続できる。
 通常のインプットのみに差し込むとステレオプラグならステレオで、モノラルプラグならモノラルで入力できる。横に追加したモノラルイン(図4のG)にさらにモノラルプラグを差し込むと通常のインプットはモノラルインのみとなり2台が接続できる。
 最初、サンライズは使用せず、コンタクトピックアップだけのシングルにしようと考えていたが、三好氏とメールや電話であれこれやりとりをする中で、自宅でもサンライズの音を試してみたくなった。試奏用のサンライズも付けていただき、気に入ればダブルピックアップとし、コンタクトのみで十分となった場合はシングルでいき、サンライズは返送するということで話が決着し、グレーベンをM-Factoryに送った。
 送ってからセットアップが完了するまでの間、良質なケーブルについて理解を深めようと、さまざまなフォーンプラグとケーブルを取り寄せ、それらを組み合わせたフォーンケーブルを十数本作製した。

 2週間ほどでセットアップが完了したグレーベンと、横にモノラルインが追加されたPM-50が到着した。すぐにサンライズを取り付け、AERのアコースティックギター用アンプに直接接続して音を出すやいなや、思わず「おお~!」っと声も出してしまった。表現が難しいが、ノイズが無く、非常に透明感があり、濃厚で艶のあるアコースティックサウンドがスピーカーから出てきたのだ。
 その後、サンライズの有無での音を確認したが、結論はサンライズもあった方が幅が広がるということになった。コンタクトのみでも十分と言えば十分なのだが、ここぞという時に前に出るきらびやかな高音や、重厚な低音はサンライズをブレンドした方に軍配が上がる。歌伴奏などはコンタクトのみの音の方が歌の邪魔をせずに良いと思うが、リバーブを少しかけてのフィンガーソロの場合はサンライズを混ぜた方が痒い所に手が届く。結局、サンライズを返送することはなかった。
 また、完成するまでの間に作っておいたさまざまなケーブルをつないでその特性を確認した。50システム自体のノイズがほとんどなく音もクリアなので、ケーブルによる音の変化やノイズ発生の度合が非常によくわかったのも予想外であった。その他多くの機器の音質チェックにも使用できそうである。

 さらに、既存の二つのエレアコをPM-50につないで音を出してみた。どちらも内部プリアンプがあるアクティブであるが、PM-50をつなぐことにより、さらにクリアで説得力のあるサウンドに変身する。手のひらサイズのPM-50が持つパワーは私の想像を確実に超えていた。
 50システムにより理想のピックアップサウンドを手に入れてしまった私は、翌日から、そのサウンドに見合ったリバーブを見つける旅に出ていってしまったのである。