18 メンテナンス

 ギターのメンテナンスは、必ずこれを行わねばならないというものは無い。マメで綺麗好きの人は毎回弾き終わるごとに綺麗に拭き上げないと気がすまないだろうし、汚れが気にならない人は拭いている時間があれば弾いていたいと思うだろうし、ピカピカではかえって落ち着かないという人もいるかもしれない。しかし、手入れしすぎるのもギターに悪影響があるし、しなさすぎるのも悪影響がある。私はおそらく一般的な方々よりほんの少し綺麗好きではないかと思っている。私のいつものメンテナンス方法を記すので、まあこれくらい行っているとギターはわりと長持ちするのかな、という気楽なレベルで見ていただきたい。

 私のメンテナンスは、毎回の弾き終わりに行うもの、弦交換時などの定期的なもの、毎年年末に行う大掃除、数年単位のペグへの給脂、フレットやナットなどの消耗部分交換やネック調整などのルシアーやリペアマンに依頼するものなどに分かれる。

 まず、毎回の弾き終わりに行うことは「カラ拭き」である。毎回毎回ポリッシュで磨き上げると塗装が痛んでしまう。通常は「カラ拭き」で十分である。ただし、少々の留意点がある。塗料の種類にもよるが、クロスはなるべく良いものを使い、力を入れてゴシゴシこすらないことである。良いクロスはネックなどに付いた手の脂分を吸着して取り除いてくれる。クロスの理想は鹿皮のセームクロスである。小型鹿のキョンのセームは最高級品と言われる。30cm四方で5000円ほどするが、非常に弱いシェラック塗装にはセームクロスを使いたい。次にお勧めは、楽器用あるいはカメラ用のマイクロクロスである。ポリエステルなどのマイクロファイバー仕上げ、30cm四方で1000円ほどのもの。ラッカー塗装・ポリウレタン塗装はこれで十分である。繊維が細く、厚みがあり、触った感じがソフトで指に絡み付いてくるようなものが良い。ただし、楽器用として有名楽器メーカーのロゴが入ったものなどは値段が高くなっており、同じ製品なのにカメラ・精密機器用の倍近くになっているものもある。
 これらのセームや上質なクロスは汗や脂分を良く取るので、使っているうちにクロスが少しヌタっとした感じになってくるが、そうなったら洗えば元の状態に戻る。中性洗剤を入れたぬるま湯で軽く押し洗いし、良くゆすいだ後に陰干しし、乾いたら軽く揉んで柔らかくすれば、もとのように使用できる。

 次に、弦交換時などの定期的なメンテナンスである。弦交換時は弦をすべて取り除くため、日ごろできない掃除やチェックの絶好の機会である。弦交換の周期にもよるが、状況に応じて弦交換時毎回、数回に1回、年に1回など決めておくと良い。 日ごろからきちんと乾拭きしていれば塗装面をポリッシュなどで弦交換時毎回磨く必要は無いが、数回に1回はポリッシュで磨くようにしている。このとき、塗装の種類によりいくつかのポリッシュを使い分けている。ポリウレタン塗装はあまり気にせずギターポリッシュとして販売されているものを使えばよいが、シェラックや極薄ラッカーの塗装は塗装面を痛めたり、はがしてしまったりする場合があるので注意が必要である。楽器店などに相談してから購入し、初めは差しさわりの無い部分で試してから使用するようにしたい。

 指板とフレットも、年に1回は綺麗にしたい。フレットは車用の極微細コンパウンドで磨いている。このとき、指板にコンパウンドが付いてこすると指板が傷むので、私はビニールテープをフレットの上下に貼って指板を保護してから行っている。ビニールテープは何回も貼ったりはがしたりができるので、全フレットで使える。ただし、ネック塗装の状態によってはビニールテープにより塗装が指板の角からはがれる場合があるので、テープでマスキングしてはがす場合は注意が必要である。フレットメンテナンス用の薄い金属プレートも販売されている。
 指板はレモンオイルを塗布し数分おいてから拭き取っている。最近のギターの多くは、高級機種でも指板を黒く染めているものが多く、レモンオイルにより染料が取れてしまう場合があるので、少量で確認してから使用するようにしたい。

 ボディ内部も年に1回は掃除している。サウンドホールから掃除機のホースを突っ込む人もいるが、トップ材やブレイシング材は柔らかく、痛める危険性があるのでお勧めしない。私は拭き取り面がフワフワの綿のようになったホコリを吸着するハンディーワイパー「ウェーブ」のワイパー部分だけを柄を付けずにボディの中に入れてやさしく掃除している。
 年に1回の大掃除時にはさらに、ボディのワックスがけ、ナット・サドルの劣化確認と掃除、ペグのボルトやビスやブッシュおよびヘッドのロッドカバーのビスのゆるみ確認、弦高確認などを行なっている。

 カバーのついているロトマチックペグは必要ないが、ギアがむき出しになっているオープンバックペグやクラシックギターのペグへは、数年に1回給脂をおこなう場合がある。(GOTOHの510シリーズなど給脂不要のものもある)
 ギア部には状態によりリチウムグリスを使用する。軸部に使うオイルは上質で塗装に悪影響が無く、なおかつすぐに蒸発しないようにやや粘度があるものがいい、この条件をクリアするものはなかなかないが、私は管楽器のキィにさす専用オイルを使用している。(写真中央の緑キャップの小さな透明ボトル「YAMAHA KEY OIL Heavy」)
 いずれにしてもオイルやグリスはごく少量使用し、なじませた後は極力ふき取ることが必要である。

 中古で購入した場合は上記のメンテナンスを一通り全部行うが、塗装面の汚れやスレが気になる場合は微粒子コンパウンドを使用し取り除く場合がある、さらにトップの裏のブレイシングの状態の確認も行う。手工ギターはトップの裏に製作者がサインしたり、オルソンのようにシリアルナンバーをトップの裏に記入することもある。さらに昨今のギターのブレイシングは様々な工夫がなされており、トップ裏の確認は私にとっては必須である。この時重宝するのが、LEDライト付き伸縮点検ミラーである。ギターのボディの中は暗く、ペンライトを入れつつ自作の小型柄付き鏡で見ていたが、思うように光が当たらず、ブレイシングにぶつけることもあり難儀していた。このLED付き点検ミラーを初めてホームセンターで見つけた時は、かなり喜んだことを記憶している。ミラーの上にある2個のLEDが目標を照らし、ミラーの角度は自由に調節でき、柄の長さも調節できる。
 さらに、2017年1月には、この点検ミラーを超える最新アイテム「USB内視鏡」を入手した。パソコンにUSB接続し動画や写真を保存できる。6個のLEDが暗部を照らし、ミラーでは見れない奥も確認でき、さらに弦を張ったままでもギター内部を詳細にチェックできる。


 また、ペグを分解掃除せねばならない場合は、工業用の高速ベアリング用グリースを用いる場合もある。給脂の時には極力小量にし、はみ出したオイルやグリスは必ずきれいにふき取っておかないと、塗装を痛めたりする。
 さらに、ボディの汚れや浅い小傷が目立つ場合は、極微細コンパウンドで磨き、ポリッシュやワックスで整えることもある。

 ロッド調整やサドルやナットの溝を削る弦高調整、ペグ交換などは自分で行う場合もあるが、フレットなどの消耗部分交換や比較的デリケートな手工ギターの数年単位の調整などは信頼のおけるルシアーやリペアマンに依頼している。